私の入口 「卵がわたしになるまで」(柳沢佳子著)



『二重らせんの私 生命科学者の生まれるまで』
著者・柳沢佳子
感想:
この人の著書は、読む度いつも、胸がワクワクするような、ときめきを感じる。

題材が一見難しそうな「生物学」でも、この人が書くと、なんと
ドラマティックなことか!

きっと、著者本人が、そんなワクワクと情熱とをもって、研究をし人生を送っておられるのだろう。

この人の作品の中で、最初に私が読んだのは「卵がわたしになるまで」次に「患者の孤独 心の通う医師を求めて」。
前作はまさに「生物学」を解り易く書いた本。後作は、著者本人の病気を軸に、現代医療の歪みを問う作品。

今回の「二重らせんの私」を読んで思うのは、もしまだどれも読まれていないなら、
二重らせんの私→卵がわたし〜→患者の孤独〜という順序がお薦め。

因に併行して、同著者の「ヒトゲノムとあなた 遺伝子を読み解く」を読んでいる途中だが、をれを4番目に置くとよいかな。

この本の中には、著者の煌めきある感性がそこかしこにちりばめられていて、ここでは全てを紹介しきれない位だ。(だから読んでみて!是非!)
その中から数カ所

人間というものは、ものごとが発見されら順序に沿って説明されたときに、いちばんよく理解できるものだよ」(高校時代の先生の言葉。)

現在のように多様な生物が生じるために性の存在は必須であったと考えられているが、ただ生物が増えるだけなら性はなくてもよい。性が何のためにいかにして生じたかは現在の生命科学でも依然として謎である。

教授たちは心から科学を愛していた。真理の追求に情熱を傾けていた。学生たちは、教授たちの生き方から多くのものを学んだ。それは、講議という形で言葉によって表現されるものよりもずっと重いものであった。教育とは全人格でなされるものだということを強く感じた。

自己と対象を区別して認識する思考回路が存在しなければ、私たちは食物を食べることもできないであろう。自己意識は生存に不可欠がものである。ところが、人間は、この自己意識を軸にして、欲望をかぎりなくふくらませていく。そして、この欲によって、自分の存在を苦しいものにしていくのである。

上記数カ所だけでも、この作品がただ生物学を解説しているだけではないのがわかっていただけると思う。

きっと、どの分野でも、研究とは実にドラマティックなものであるに違いない。
出口 「患者の孤独 心の通う医師を求めて」(柳沢佳子著)
「分身」(東野圭吾著)

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